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函館地方裁判所 昭和41年(ワ)316号 判決

原告 有限会社トキワ自動車工業

右代表者代表取締役 石田徳松

右訴訟代理人弁護士 樋渡進一

被告 西田建設有限会社

右代表者代表取締役 西田政治郎

右訴訟代理人弁護士 土家健太郎

被告 綜合産業株式会社

右代表者代表取締役 由崎英三

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 熊谷正治

主文

一、被告西田建設有限会社は、別紙物件目録記載の建物について函館地方法務局昭和四〇年四月二四日受付第八五五九号を以てした所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

二、被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所は、右建物について同法務局同年五月六日受付第九二二二号をもってした同年同月同日付売買予約を原因とする持分各二分の一の所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。

三、被告西田建設有限会社が右建物について昭和四一年三月二日被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所のために設定した抵当権が存在しないことを確認する。

四、原告の「被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所が前項掲記の抵当権に基いてなした右建物に対する競売申立(当庁昭和四一年(ケ)第五一号事件)はこれを許さない。」との請求を却下する。

五、訴訟費用は被告西田建設有限会社の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文の第一項ないし第三項と同旨及び「被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所が昭和四一年三月二日被告西田建設有限会社によって設定された抵当権に基いてなした別紙物件目録記載の建物に対する競売申立(当庁昭和四一年(ケ)第五一号事件)はこれを許さない。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、

一、別紙物件目録記載の建物(以下単に本件建物という。)について、現在、函館地方法務局昭和四〇年四月二四日受付第八五五九号の被告西田建設有限会社のための所有権保存登記並びに同法務局同年五月六日受付第九二二二号の被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所のための同年同月同日付売買予約を原因とする持分各二分の一の所有権移転請求権保全の仮登記がそれぞれ経由されている外、被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所から、同被告等のため昭和四一年三月二日被告西田建設有限会社が設定した抵当権に基いて競売申立(当庁昭和四一年(ケ)第五一号事件)がなされている。

二、しかしながら、本件建物は原告の所有に属する物である。

即ち、

(一)  原告は、自動車整備業を営む会社であるが、代表者及び従業員用の住宅を建築するため、原告を注文者、被告西田建設有限会社を請負人として次のごとき契約を締結した。

契約年月日 昭和三九年一〇月八日

建築場所  函館市港町三一五番地五

建築目的物 木造モルタル塗亜鉛メッキ鋼板葺二階建共同住宅

総床面積二三四、三四平方米

完成期日  昭和三九年一一月二五日

代金額   二八三万円

支払方法  同年一〇月一二日に二〇万円、その余は出来高に応じて中間払とし、一応同年一一月一五日に一〇〇万円、同月二〇日に六〇万円、完成期日に一〇三万円

(二)  原告は、右契約に基いて昭和三九年一〇月一二日被告西田建設有限会社に対し二〇万円を支払ったが、同被告において資金難のため所期のとおりに工事を進捗させないので、同被告の依頼によりやむなく木材等の資材を現物で供給したり、あるいは大工、左官等に対し直接労賃を支払ったりして工事を続行させたが、約定の同年一一月二五日までは勿論のこと、翌年三月に至っても工事の完成を見るに至らなかった。原告が支払った資材及び労賃の額は金三七万六、二〇〇円に上り、又昭和三九年一二月までの間同被告に支払った工事代金は合計金一四五万である。

(三)  そこで原告は、昭和四〇年三月四日同被告に対し、同月一〇までに完成するよう厳重に催告したが依然履行されなかったので、その頃右請負契約を解除した上、同被告から未完成のまま引渡を受け、他の業者に依頼して同年五月二五日ようやく右工事を完成させたのであった。これが本件建物である。そして、右の解除後原告が他の業者に支払った工事費は金六四万円である。

三、かような次第であるから本件建物が原告の所有に属する物であることは明らかであるが、同被告において第一項で述べたごとく、原告不知の間に、ほしいままに自己名義の所有権保存登記を経由した上、被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所のための仮登記手続と抵当権の設定をなし、更に同被告等において当庁に対し右抵当権に基く競売申立(昭和四一年(ケ)第五一号事件)をなした。これらの各登記が実体に副わず、右の抵当権設定が権限のない者によってなされたものとしていずれも効力のないものであること及びこの無効な抵当権に基く競売申立が許されないものであることは、いうまでもないところである。

よって原告は被告等との関係で請求の趣旨どおりの判決を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ(た。)

≪立証省略≫

被告西田建設有限会社訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として、「同被告が本件建物について原告主張のごとき各登記手続と抵当権設定をなし、原告が主張するとおりの請負契約を締結し、原告から金一四五万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。本件建物は、同被告において完成し、(但し、左官工事の手直部分は残っていた。)その所有に帰した物である。従って、同被告所有名義の保存登記が有効であるのはいうまでもなく、又同被告のなした爾後の処分も適法である。」と述べ(た。)

≪立証省略≫

被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実中、本件建物が原告の所有に属するとの点を争い、その余の事実は知らない。同第三項の事実中、原告主張の各登記の経由と抵当権の設定とが被告西田建設有限会社によってなされ、その余の被告等によって原告主張の競売申立がなされていることは認めるが、その余の原告の主張を争う。」と答え(た。)

≪立証省略≫

理由

一、本件建物について、原告主張のとおり、被告西田建設有限会社が自社のための所有権保存登記手続とその余の被告等のための所有権移転請求権保全の仮登記手続及び抵当権設定とをなしていることは当事者間に争いがない。

原告は、本件建物が原告の所有に属する物であるから、右の各登記及び抵当権の設定が権限のない被告西田建設有限会社によってほしいままになされた登記申請手続及び設定契約に基くものとして無効であると主張する。よって、まずこの点について判断する。

≪証拠省略≫を綜合すれば、

(一)  原告を注文者、被告西田建設有限会社を請負人として、昭和三九年一〇月八日、原告会社代表者及びその従業員の住宅に用いるため、函館市港町三一五番地五に木造モルタル塗亜鉛メッキ鋼板葺二階共同住宅(総床面積二三四、三四平方米)を請負報酬金二八三万円で建築する旨の契約が成立し、その際に完成期日を同年一一月二五日と定め、支払方法を契約後間もなくの同年一〇月一二日に二〇万円、中間の同年一一月一五日と同月二〇日に予想出来高に応じた分としてそれぞれ一〇〇万円と六〇万円づつ、完成期日の同月二五日に残額一〇三万円の分割払とした(なお、右事実の大綱は原告と被告西田建設有限会社との間に争いがない。)。

(二)  そこで原告は、同年一〇月一二日に二〇万円を被告西田建設有限会社に支払ったが、同被告の資金難から建築資材や建具等の調達ができなかったり、又大工や左官への支払が遅滞して予定のようには工事が進捗しなかったため、当初約定の支払方法とは別に五万円を特別に同被告に対して支払ったほか、同年一一月中旬以降同被告の依頼により原告において自らの資金で建築資材や建具等の調達と大工や左官への支払をするようになり、そのために合計二三万〇、五〇〇円を支弁し、更に同年一二月二九日同被告に対し一二〇万円を支払って工事の促進を図った結果、その頃までにはようやく外装工事と内部工事を残して建物といいうる程度までに工事が進捗した。

(三)  その後翌昭和四〇年に入ってからは、原告は、工事の執行を同被告の手に委ねておいたが、同年三月初めに至っても残余の、主として建物内部の細部の工事が終了しないので、同月四日付の書面でもって残工事を同月一〇日までに完了するよう同被告に催告したが、同日までに履行されなかったため同月一一日付をもって前示の請負契約を解除する旨の意思表示をなし、これがその頃同被告に到達した。

(四)  以後原告は、約六五万円を投入し他の業者に依頼して残工事を続行し、同年五月末頃ようやく大部分の工事を完了したが、当初の契約で定めた仕様よりも程度の低い工事内容に終った。これが本件建物である。

これらの事実を認めることができ、この認定を左右するだけの証拠はない。

以上に認定した事実関係のもとでは、本件建物の所有権は、これが建物といいうる程度に出来上った当時から原始的に注文者たる原告に帰属したとみるのが相当である。従って、本件建物についてなされている被告西田建設有限会社のための所有権保存登記が実体上の権利関係に符合しない無効なものであり、又その余の被告等のための所有権移転請求権保全の仮登記と抵当権の設定とが、いずれも処分権限を有しない被告西田建設有限会社によって登記手続ないしは設定契約がなされたことに基くものとしてこれ亦結局のところ効力のないものであるといわなければならない。よって、原告の本訴請求のうちこれら各登記の抹消登記手続と右抵当権の不存在確認とを求める部分は理由がある。

二、ところが原告は、第四番目の請求として、被告綜合産業株式会社及び被告株式会社由崎製材所が右の抵当権に基いてなした本件建物に対する競売申立(当庁昭和四一年(ケ)第五一号事件)を許さないとする旨の裁判を求めている。右請求の文辞は必ずしも明確なものとはいいがたいが、これを仮に抵当権の実行不許の裁判を求める趣旨に解しても、いずれにしても本件のごとく抵当物件の所有者が実体上無効な抵当権を有する者のなす右権利の実行を阻止しようとの目的から一方で抵当権不存在の確認を求めている場合には、この請求が認容される限り、その確定判決のもたらす反射的効果として競売裁判所もこれが提出されれば結局競売手続の開始を差控え、或いは続行を停止して既になされた手続を取消すべきこととなるものと解されるので、この請求の外に更に前記のごとき抵当権実行不許の裁判を求める利益はこれを否定するのが相当である(本件のような事案のもとで、抵当権不存在確認の請求が認容されずに、右のごとき不許の裁判――そもそもこのような訴が任意競売阻止のために許されるのか、仮に許されるとしても、その根拠法条を民事訴訟法第五四九条とみるか、それともそれ以外の規定とするかの論定は別として――が同一の訴の中でなされることは論理上ありえないと考えられる。)。

三、よって、原告の本訴請求中、前記理由のある部分を正当として認容するが、訴の利益を欠く部分を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林哲二)

〈以下省略〉

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